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ジュエリーの鑑定書って本当に必要?現場で見てきた本当の価値の話

ジュエリーの鑑定書って本当に必要?現場で見てきた本当の価値の話ジュエリー

GIA(米国宝石学会)認定の宝石鑑定士として、20年以上現場で数えきれないほどの宝石を見てきました。特に印象的だったのは、初めて自分の目で1カラットを超える無色透明のダイヤモンドを鑑定したとき。

手のひらの上でキラキラと輝くその石を前に、思わず息を呑み、宝石の持つ「本物の力」に圧倒された瞬間を今でも鮮明に覚えています。そのような経験をお客様に話すと「鑑定書って、本当に必要なんでしょうか?」とよく質問されます。

この記事では、現場で見てきたリアルな声やエピソードを交えながら、鑑定書・鑑別書の意味と価値を書きます。

鑑定書と鑑別書の違いを、料理にたとえるなら

お客様に「鑑定書と鑑別書の違いって何ですか?」と聞かれるたび、私はよく料理に例えて説明しています。実際、以前、料理好きなお客様にこの例えをしたところ、「なるほど!それなら分かりやすい」と納得していただけました。

鑑定書は、ミシュランの星付きレストランで料理に添えられる「評価表」のようなもの。鑑別書は、その料理に使われている食材が何かを明記した「原材料表」にあたります。

つまり、「このダイヤはこう評価されています」というのが鑑定書、「この石はルビーです」と証明するのが鑑別書です。

一般的に、鑑定書はダイヤのみにつけます。鑑定書がある時点で、ダイヤモンドと認定されているので、ほかの石を疑う必要はありません。鑑別書は希望があればあらゆる鉱物につけることができます。

実際の鑑別書と鑑定書

実際の鑑別書と鑑定書

鑑別・鑑定のリアル ~留学中に学んだこと~

私がGIAで学んでいた頃、毎日朝から晩までラボにこもり、世界中から集まるダイヤモンドをひたすら観察していました。ダイヤの4Cのうち、一番評価がしにくいのが内包物の判断です。

炭素のちいさな点が石の中にあるのですが、それがどの場所か?どの大きさか?によって評価が変わってきます。

特に印象的だったのは、同じ石をクラスメイト3人で評価したとき。内包物の位置や大きさの判断で、私とアメリカ人の同級生、インド人の同級生で意見が割れ、先生に「プロでも意見が分かれる、それが宝石鑑定の奥深さ」と言われたことが忘れられません。

逆に一番評価しやすいのは、色です。マスターストーンというサンプルがあって、比べながら評価をします。これは経験を積めばほぼ間違えることはありません。

鑑定機関によって同じダイヤも評価が若干かわることがありますが、よほど希少な石で、オークションレベルのものでなければ、さほど気にしなくてもいいです。購入時は、鑑定書がすべてだと思わず、最後は自分の直感を信じることが大事です。

一方で、鑑別ではそれぞれの石に屈折率があり、明確な判断基準となるので、間違うことはまずありません。よって、名前の知れているところはどの鑑別機関のものも差はありません。

石には決まった屈折率がある

石には決まった屈折率がある

明暗をわけた鑑別・鑑定書のエピソード3選

鑑定書や鑑別書の有無により、ジュエリーの取り扱いが大きく変わったエピソードを紹介します。

①「鑑定書がなかったから、家族に託せなかった」60代女性の涙から学んだこと

数年前、60代の女性が「亡き父から譲り受けた指輪を娘に渡したいが、本物か分からず不安」とご相談に来られました。箱を開けると、繊細な細工のダイヤモンドリング。鑑定書がなく、ご本人も「本物だと信じたいけれど…」と不安そうでした。

譲り受けたダイヤのリング

譲り受けたダイヤのリング

丁寧に検査し、天然ダイヤモンドであることを伝えると、涙を流して「これで安心して娘に渡せます」とおっしゃったのがとても印象的でした。鑑定書は、想いをつなぐ「安心の証」だと実感した瞬間でした。

ダイヤを検査する様子

ダイヤを検査する様子

②婚約指輪の違和感を見抜いたカップルの話

お客様の紹介である30代のカップルが、婚約指輪の相談で会いました。彼がネットで購入したダイヤモンドを「鑑定書付き」と見せてくれたのですが、内容を確認してみると、発行機関の名前が聞いたことのないもので、評価項目も不明瞭でした。

婚約指輪

婚約指輪

そこで、私はいくつかGIAやCGLの正規鑑定書付きのダイヤをご紹介し、実際に並べて比較してもらったんです。

GCLの鑑別書

GCLの鑑別書

すると、彼女が一言、「同じ鑑定書付きでも、こんなに違うんですね…これなら安心できます。」と話してくれました。結局、その日はGIA鑑定書付きのダイヤモンドを選ばれました。

後日届いたメッセージにはこう綴られていました。「あの比較体験で石の目利き力が少しついた気がします。」鑑定書とは、見る目を育てる教材でもあるのかもしれません。

③「ブランド保証」よりも心強い科学の裏付け・50代女性のエメラルドリング事件

お客様の知人で50代女性から百貨店の催事で購入したというエメラルドのリングについて、ご相談を受けました。ブランド名が有名で、価格もそれなりに高額。「信じていたけど、何かが腑に落ちない」という直感だったそうです。

エメラルドリング

エメラルドリング

検査の結果、そのエメラルドには無色樹脂による含浸処理がなされており、説明書きにはその記載が一切なかったことが判明したのです。

石の内部を検査の様子

石の内部を検査の様子

処理自体は業界では珍しくないものの、「高額かつブランド品」で「処理の有無が明記されていなかった」ことにお客様は強く不信感を抱かれていました。「ブランドより、ちゃんとどういう石なのかを伝えてくれる人の方が信頼できる。」そう言われたとき、私自身の仕事の意味をあらためて感じた瞬間でした。

よくある誤解と、気をつけたい「なんちゃって書類」

実際、私が現場で見てきた中には「鑑定書付き」と書かれていても、発行機関が不明だったり、書式が明らかにおかしい書類も多くありました。20代の女性が初めて購入したジュエリーについて、「あれって、ちゃんとした石なんですかね…?」とご相談に来られたことがありました。

青色のジュエリー

青色のジュエリー

彼女は旅先で素敵なブルーの石を購入したそうですが、気になって帰国後に見てもらいたくなったとのこと。機関名がアルファベット3文字だけ。調べても情報が出てこず、評価も曖昧でした。

その結果、その石は人工スピネル。天然に似せた見た目ですが、素材としての価値は全く異なるものでした。お客様に説明すると「やっぱり、ちゃんとした機関のものじゃないと不安ですね。」と納得されていました。

海外の土産店には、怪しい石がたくさんあるので、値段の安いものを割り切って買うことをお勧めします。

まとめ:鑑定書・鑑別書は「形式」ではなく「信頼の道具」

20年以上現場で宝石と向き合ってきて感じるのは、鑑定書や鑑別書は「形式」ではなく「信頼の証」であるということです。大切な人に安心して託したい、将来も価値が伝わるようにしたい―そんな想いを支えるのが、きちんとした書類だと私は考えています。

鑑定書の重要性についてはこちらも参考にしてください。

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