「とりあえず有名ブランドなら安心」
そう考える方は少なくありません。確かに、ブランドにはネームバリューがありますし、持っているだけで満足感があるのもわかります。
でも、GIA(米国宝石学会)認定の宝石鑑定士として、日々多くのジュエリーに触れている私の視点から言わせていただくと、「ブランドだから安心」は、必ずしも正しくありません。
中には、「名前だけで選んでしまい、後から中身にがっかりした」とご相談にいらっしゃる方もいます。
この記事では、ブランドに頼らず本当に価値あるジュエリーを選ぶための見方を、私の現場経験を交えてお伝えしていきます。
ブランド名では測れない価値がある
数年前、ある有名ハイブランドのダイヤモンドネックレスを鑑定したときのこと。
箱もラッピングも完璧。でも、肝心の石のクオリティはというと、色味がやや黄色味がかり、クラリティにも気になる部分がありました。
しかも強い蛍光性があり、光の下では青っぽく濁って見える瞬間も。
一方、同時期に持ち込まれた、無名ブランドのリング。
こちらはGIA付きのダイヤモンドで、透明度・輝き・プロポーション、どれをとっても申し分ないものでした。爪の処理や石座の作りにも、丁寧な職人技が感じられました。
「えっ、無名の方がいいんですか?」と驚かれる方も多いのですが、ブランドは背景や安心を提供してくれる一方で、中身の品質が追いついていないこともあるのです。
ジュエリーの中身って、どこを見ればいい?
では、ブランドに頼らず「中身」で選ぶには、どこに目を向ければいいのでしょうか?
ポイントは、次の5つです。
①石のクオリティ(4Cや処理の有無)
質のいいダイヤモンドはブランドでなくても手に入ります。幸い、ダイヤにはしっかりした評価基準があるので、参考にします。
矛盾しているようですが、評価基準があってもそれがすべてではありません。
最終的には自分の目で見て、一番気にいったものが一番いいものになります。
②鑑定書・鑑別書の発行機関の信頼性
鑑定書や鑑別書にはランクがあって、私が卒業したGIAのものが世界最高峰とされています。
自分で持ち込んで鑑定書をとることもできます。
③留め具や石座の作り・仕上げ
ジュエリーの綺麗さは職人の腕によるとところも大きいです。
個人のレベルでもプライドを持っている職人さんはたくさんいますので、ネットで検索してみてもいいでしょう。
④全体のデザインバランス
一般に人も入場できる宝飾展が年に数回開催されるので、積極的に足を運んでデザイン性のセンスを磨くのもいいでしょう。
たくさんのジュエリーをみることが一番のセンスアップになります。
⑤作り手のこだわりや背景ストーリー
こちらも展示会などに積極的に足を運び、たくさんのデザインや職人に出会うことで見る目が養われ、自分だけのジュエリー選びができるようになります。
これらを総合的に見ることで、名前ではなく中身で選ぶ力が少しずつ養われていきます。
鑑定士が教える“中身で選ぶ”ための3ステップ
初心者でも、「ブランドじゃなく中身で選びたい」と思ったときに使える、実践的な3ステップをご紹介します。
ステップ1:目的を明確にする
婚約指輪なのか、普段使いなのか、親から子への譲りものか──目的によって選ぶべき基準は変わります。
ステップ2:構造と裏側に注目する
華やかな表だけでなく、裏側の仕上げや、石の留まり方、金属の厚みなどを確認することで、耐久性や本気度が見えてきます。
ステップ3:相談できる専門家を見つける
鑑定士・販売員・職人など、信頼できるプロの意見を仰ぐことも、自分の審美眼を育てる第一歩です。
自分の目でお気に入りを選んだエピソード3選
これまでの接客経験から特に印象に残っている「ブランドよりも自分の目を信じて選んだ」エピソードを紹介します。
■エピソード① ブランドの呪縛から抜けられなかった女性
30代後半の女性が、ブランドのピアスについて相談に来られたときのことでした。
「ずっと某ハイブランドで揃えてきたんですが、最近石の輝きが前よりない気がして」というお話でした。
拝見すると、確かにセッティングは美しいのですが、石そのものの透明度がやや曇っており、テーブル面に小傷も多数。
ブランドネームがついている分、価格は高めですが、石そのものは無名ブランドで扱う同等価格帯よりやや劣る品質でした。
ご本人も「ブランド名だけで安心してたかも…」と驚かれていて、最終的にはご自身で石の質を見ながら、まったく別のピアスを選ばれました。
「これからは見る目を養いたいです」
そう言ってお帰りになった笑顔が、印象に残っています。
■エピソード② 祖母のジュエリーから本物の基準を学んだ男性
40代の男性が持ち込まれたのは、お祖母様の遺品だったというプラチナの指輪。
「全然知らないブランドなんですが、なんだか捨てられなくて…」と話されていました。
拝見すると、リングに留められていた石は、無処理のブルーサファイアで、しかも当時の手作業でカットされた味わい深いもの。枠の作りも丁寧で、当時の職人のこだわりが感じられるものでした。
「ブランド名なんて知らなかったけど、祖母が大事にしていた理由がわかりました」
この言葉に、審美眼とは“学ぶもの”ではなく“感じるもの”なのだと、こちらも教えられた気がしました。
■エピソード③ 初めての自分で選んだ一本がくれた自信
大学卒業を控えた20代の女性。
「就職祝いに、ひとつジュエリーが欲しいんですけど、ブランドより自分に似合うかで選んでみたくて」と来店されました。
じっくり時間をかけて試着を繰り返し、最終的に選ばれたのは、小さな工房が手作りしたピンクスピネルのリング。
肌のトーンにぴったり合い、彼女の柔らかな雰囲気を引き立てる一本でした。
「今まで誰かが選んだものばかりをつけてたけど、これが自分の選んだ一本っていうのがうれしい」
その言葉に、ジュエリーの価値は自信にまでつながるのだと実感した瞬間でした。
まとめ:ブランドを超えて、自分で納得できる一本を
ブランドには安心感や信頼がある。それは間違いではありません。
でも、「有名だから」というだけで選ぶのではなく、「自分が納得できる中身か」で判断してみてほしいのです。
ジュエリーは、誰かのためではなく、自分の人生に寄り添うもの。
好きやしっくりくるという感覚を大切にしてこそ、選んだあとの満足感は深くなると私は思っています。
あなたが次に出会うジュエリーが、名前ではなくあなたの目で選ばれた一本になりますように。
そしてそれが、10年後も「やっぱりあれにしてよかった」と思える、心の宝物になりますように。
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