私が宝石店で接客していると、お客様から「高いジュエリーはやっぱり良いものなんですか?」とよく尋ねられます。
実は私自身、ジュエリー業界に入る前は「高ければ高いほど価値がある」と思い込んでいました。しかし、現場で何百人ものお客様と接し、自分でも購入や査定を重ねるうちに、その考えが大きく変わったのです。
この記事では、私自身の経験や、実際にお客様から聞いたエピソードをもとに、「高いジュエリー=価値が高い」というイメージの本当のところを、正直にお伝えします。
高額=高品質ではない?業界で見てきた「価格と価値」のズレ
私がジュエリー業界に入ったばかりの頃、初めて100万円を超える指輪を目の前にしたときは「これぞ本物のジュエリーだ!」と胸が高鳴りました。
ですが、実際にGIAで学び、現場で何千点もの宝石を見ていく中で、価格と本当の価値が必ずしも一致しないことを何度も体験しました。

ルビーのリング
たとえば、ある時、百貨店で200万円のルビーリングを査定する機会がありました。ぱっと見は深い赤色でとても美しかったのですが、ルーペで確認するとガラス充填が施されていました。
これは、肉眼では分からない石のヒビをガラスで埋めて見た目を良くする処理です。こうした処理石は、見た目は綺麗でも耐久性や市場価値は大きく下がります。この経験から、「高額=高品質」とは限らないという現実を身をもって知りました。
【リアルな現場から】高額と品質のずれを感じたエピソード
26年の現場経験の中で特に印象的だった高額と品質のずれを感じたエピソードを紹介します。
ケース①:30万円のエメラルドに感じた違和感
お客様の30代Oさんが「記念にエメラルドのジュエリーを買いたい」とのことで買い物に同行した時のことです。いくつか試着をしながら、Oさんが気に入ったのは選ぼうとしていたのは、30万円のエメラルドのリングでした。

エメラルドリング
ぱっと見は美しいけれど、私には照りが弱く、色もややにごって見えて違和感がありました。石を見ると、オイル処理がかなり強く、しかもカットのバランスも悪い状態でした。
それを伝えると、Oさんは驚いた表情でこう言いました。「百貨店で30万円なら安心だと思ったんですけど…」ここで大切なのは、値段や販売場所で安心しすぎないことです。私たちプロでも、石の中身はルーペで見ないとわからないのです。
ケース②:メルカリで買った安いダイヤの真実
最近は、メルカリなどフリマアプリでジュエリーを買う方も多いですね。実際、Aさんというお客様が「ネットで10万円のダイヤリングを見つけて即決しました!」と持ち込まれたことがあります。
鑑定してみると、確かにダイヤモンドではありましたが、カットが粗く輝きが弱かったのです。さらに、付属の鑑定書もネット上で誰でも使える画像だったため、Aさんも「やっぱり店頭でちゃんと見てもらえばよかった」と苦笑いされていました。

ダイヤのリング
私がネットを見ていても、巧妙に説明がしてあり、素人だと間違えそうな情報がたくさんあります。やはり、実物を見て納得して買うことの大切さを実感しています。
ケース③:80代女性が語った「価値は記憶の中にある」
忘れられないお客様がいます。80代のHさんが、手のひらに小さな箱をそっとのせて「これは主人が初任給で買ってくれた指輪なの」と見せてくれました。石は小粒のダイヤで、今の相場なら5万円もしないかもしれません。

小粒のダイヤリング
でも、Hさんの目はとても輝いていて、「これが私の人生で一番大切な宝物」とおっしゃっていました。その瞬間、どんな高価なジュエリーよりも、思い出やストーリーこそが本当の価値なんだと、改めて気づかされました。
宝石鑑定士の結論:「高い=価値がある」は一部だけ正しい
私がこれまで見てきた中で、「高い=価値がある」と言い切れるジュエリーは実は一部だけです。確かに、質の高い天然石や世界に数点しかない希少品は、価格に見合う価値があります。
でも実際は、ブランド名や流行、処理内容によって価格がつり上がっている例も多く見てきました。私自身も、最初はブランド品に惹かれて高額なジュエリーを買ったことがありますが、後から「本当に自分にとって必要だったのか?」と疑問に思ったこともあります。
「自分の気持ちが納得できるか」「本当に長く愛用できるか」――この2つを大切にして選ぶことで、価格以上の満足感を得られることを、現場で何度も実感しています。
誰かの価値観や価格だけに頼らず、自分にとっての意味や心地よさを基準にすることで、価格以上に満足度の高い一本に出会えるはずです。
ジュエリー選びに迷った時のチェックポイント3点
私自身が自分の指標にしている迷ったときのチェックポイント3点を紹介します。プロとしての仕入れはもとより、一般の方の購買時の参考にしてください。
① 石の品質は必ず自分の目で確認する

石の状態は必ずチェック
私は購入前に必ずルーペで石を見ます。4Cだけでなく、処理の有無や産地の説明を販売員に直接聞くようにしています。実際に「説明を聞いて納得できたから買った」というお客様は、長く愛用される傾向があります。
② 自分の価値観とときめきを大事に

着けて出かけたい!と思うジュエリー
私自身、「これを着けて出かけたい!」と心が動いたジュエリーは、値段に関係なくずっと大切にしています。逆に、流行や周囲の評価だけで選んだものは、結局使わなくなりました。
③ 価格と品質のバランスを見極める

価格と品質のバランスを大切に
安いものでも良いものはありますし、高いものでも割高なことも。私は購入前に必ず複数店舗を回り、同じような石やデザインの価格を比較します。信頼できるお店かどうかも、実際に話してみることで見えてくるものです。
まとめ:値段ではなく物語を身にまとうという選択
ジュエリーは、単なる装飾品ではなく、その人の人生や思い出が詰まった物語だと思います。私自身も、値段ではなく「自分にとって特別かどうか」を基準に選ぶようになってから、毎日が豊かになりました。
ぜひ、みなさんも自分だけの価値を大切にして、後悔のないジュエリー選びを楽しんでください。
40代からのジュエリー選びはこちらの記事も参考にしてください。

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