1990年代後半から2010年前後に生まれたZ世代は、ジュエリーに対する価値観や選び方がこれまでとは大きく異なっています。ブランドや価格よりも「自分らしさ」や「推し活」といった感情との結びつきを重視する傾向が強く、私自身も現場でその変化を日々実感しています。
業界歴が長いからこそ新しい選び方との比較を記事にします。
推し活が宝石選びを変えている
推し活とは、自分の好きなアイドル・キャラクター・アーティストなどを応援する活動のことです。

推し活の様子
Z世代にとってはこの推しとのつながりが、日常の選択や消費行動にも強く影響を与えています。実際、「推し色」と呼ばれるカラーのアクセサリーやファッションアイテムを身につける文化が定着しつつあります。
その流れが、今ではジュエリーにも波及しており、業界仲間とよく話すのは、「自分の推しのイメージカラーだから」「ライブに着けていきたいから」といった理由で、色石を選ぶって昔からは考えられないよねと言っています。
私の20歳の娘もKPOPのグループが大好きで、同じものを持ちたがります。先日も、推しのメンバーの好きな色が青らしく、「青のジュエリーを持ちたいからどれがいいか一緒に選んで!」と言われました。

推しが好きな青のジュエリー
ライブのたびにつけていきたい!と選んだのは、鮮やかなブルートパーズのピアスでした。
Z世代のジュエリー選び3つの特徴
Z世代のジュエリーの選び方には、明確な傾向があります。ここでは3つのキーワードで整理してみます。
1. 色石にこだわる
ダイヤモンドのような無色透明な石ではなく、色味のあるストーンを選ぶ傾向が強いです。

色味のある石
特に推しのイメージカラーや、自分自身のパーソナルカラーに合うものを好みます。ブルー系ならトパーズやタンザナイト、ピンク系ならローズクォーツやモルガナイト、紫ならアメシスト。色で気持ちや推しとつながっていたいという感覚がベースにあります。
娘の友人の推しはピンクが好きらしく、「ピンクだとどんな石がありますか?」と質問を受けたことがあります。推しにまっすぐに進む姿はとてもかわいいですね。
2. ハンドメイドや一点物が好き
私の感覚では、推しを好きな人は、量産品ではなく、世界にひとつを大事にする世代だなと感じます。InstagramやCreemaなどで作家もののリングやペンダントを探して、直接DMでオーダーするZ世代も多いです。「誰かと被らないこと」に価値を感じており、ジュエリーであってもそれは変わりません。

SNSで作家ものを探す
実際に、業界仲間である推しの下請けをしている会社はコンサートがあるたびに大変忙しくなり、注文が来てから3か月以上かかると話していました。
3. 意味のある宝石を選ぶ
誕生石や願いを込めた意味のある石など、背景ストーリーのある宝石を好みます。

誕生石
単なる見た目ではなく、「この石には癒しの力があるらしい」「守ってくれる意味があるって聞いて」といった感情面でのつながりを重視しています。
共感消費と色でつながる感情の関係
娘と話していると、Z世代の消費は機能や見た目ではなく、共感がカギになっているのだなと感じます。宝石の価値は、かつては産出量や希少性が主な評価軸でした。しかしZ世代にとっては、「どんな気持ちになれるか」「どんな背景やストーリーがあるか」の方が大切です。

Z世代の価値観
「自分が大切にしている存在と同じ色の石を身につけることで、気持ちが強くなる」という心の動きにこそ、宝石の本当の意味があると、Z世代は直感的に理解しているのかもしれません。
推し色ジュエリーの選び方3選
宝石鑑定士として私がZ世代にアドバイスするとすれば、「推し色×肌なじみ」のバランスを意識するとより素敵になります。実際に接客したお客様のエピソードを紹介します。
エピソード①|推し色のピアスで勇気をもらった大学生
知り合いのお嬢さんの20代前半Yさんは、緊張気味に「宝石屋さんって初めてで…」と店内を見回していた彼女は、しばらくしてから小さな声でこう言いました。
「推し活で着けられる、ちゃんとしたジュエリーを探してて…」話を聞くと、彼女にはずっと応援している男性アイドルグループの推しがいて、ライブの時だけでなく、就活や面接、発表会などの「ここぞという場面」にも、推しを感じられる何かを身につけていたいと思ったのだそうです。
「安いアクセサリーもいろいろ買ってみたんですけど、すぐ色がくすんじゃって…。
もっと長く使えて、大人っぽいものが欲しいなと思って、今日勇気を出して来ました。」彼女が選んだのは、イエローパールの太陽モチーフペンダントでした。

太陽モチーフのペンダント
ご自身の誕生石でもあり、推しのイメージカラーがイエローということもあって、一目見て惹かれた様子でした。「この色、推しのビジュアル撮影の時に着てたスーツにそっくりなんです。見るたびに思い出せるから、身につけてると安心できる気がして…」
「ライブ以外でも使いたいから、派手すぎず、でも気分が上がる感じにしたい。」とこだわり、最終的に世界に一つだけの推し色ペンダントが完成しました。
後日、彼女から丁寧なメールが届きました。「就活の最終面接でこのペンダントをつけていきました。自分にとってすごく大きな味方でした。『似合ってるね』って言われたのも嬉しくて、あのとき選んでよかったです。」
ジュエリーは、単なる装飾品ではありません。それを身につける人の背中をそっと押すお守りのような存在になることもあるなと彼女の姿から、私も改めてそのことを思い出しました。
エピソード②|「推しのイメージで」カスタムオーダーしたブルームーンストーンのリング
「この春から社会人になるので、自分へのご褒美に推しイメージのジュエリーが欲しくて…」そう話してくれたのは、娘と同じ大学を卒業したばかりの22歳のKさんでした。
Kさんの推しは、ある人気グループのクールな雰囲気を持つメンバーです。「月っぽさがある人で、夜空とか静けさとか、そういう世界観に惹かれるんです」と、目を輝かせながら話してくれました。
店内を一緒に見て回る中で、彼女の視線が止まったのは、ブラックダイヤのネックレスでした。

ブラックダイヤのネックレス
光の当たり方でほんのり浮かぶ輝きに、彼女は「これ、まさに推し…」とぽつり。「この透明感、儚さ、どこか芯のある感じが、全部重なって見えるんです。」ジュエリー初心者とのことで、最初は迷われていましたが、内側に小さな誕生石のパールを埋め込んだ特別仕様のネックレスをオーダーしました。
「社会人になったら、もう推し活なんて言ってられないかな…って思ってたけど、このリングがあれば、自分だけの静かな応援を続けられる気がします。」出来上がったリングを指につけて彼女がふっと微笑んだ瞬間、「ジュエリーは自分に対するプレゼントでもあるのだ」と、あらためて感じました。
エピソード③|推しカラーのアンクレットで日常に幸せを仕込む20代男性
ジュエリーと推し活というと、女性の話が多い印象ですが、最近は男性の間でも宝石を自分のために選ぶ人が増えてきています。
ある日来店されたのは、20代前半のIT系の男性Oさんで、「ジュエリーを買うのは初めてです。でも、推しが青緑系で、その色を身につけていたくて…」と少し照れながら話してくださいました。
Oさんが希望したのは、人に見えない場所で、自分だけがわかる推しを身につけること。そこでご提案したのが、蜂モチーフのシンプルなアンクレットでした。

シンプルなアンクレット
目の部分に小さなダイヤがさりげなく配置されているだけのミニマルなデザインで「スーツでも私服でも違和感がなくて、でも自分だけの意味がある。これ、すごく理想です」と即決しました。
「本当に小さいんですけど、毎朝このアンクレットを見ると今日もがんばろって気持ちになるんです。ライブとかに行けなくても、推しと一緒にいるみたいで。誰にも言ってないけど、自分にとってはすごく大事な時間なんです。」と話していました。
そんなふうに語ってくれたOさんの姿から、人に見せるためではなく、自分の心の支えとしてジュエリーを選ぶZ世代ならではの感性を感じました。
まとめ:推しを身につける=自分を大切にするということ
Z世代の宝石選びは、推しを大切にすることがそのまま自分自身の感情や価値観を尊重する行為と結びついています。私が現場で見てきたZ世代は、宝石を高級品ではなく心を満たすお守りとして選ぶ傾向が強く、SNSや共感消費の時代にふさわしい新しいジュエリーの楽しみ方を体現しています。
後悔しないジュエリー選びはこちらも参考にしてください。

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